私はいま「ヨセフアンドレオン」社のKindle本にハマっている。ハードボイルド作家の中川文人氏が営む編集プロダクション。同社の刊行物は読者を現実世界の外へ誘う手引き書のよう。
たとえば日本学生運動のメッカ、外堀大学(これって法政のことですよね…)を舞台にした愛と革命の物語『黒ヘル戦記』。「法政大学11億円詐欺事件」の真相にも触れる『サムライ・コミュニズム』。風俗嬢と「最後までやる」方法をまるで修行僧が指南するかのように淡々と説く『AI開発者が教える 男の夢を実現する方法』など。(現在、Kindle Unlimitedでも読むことが可能です)
同社の発行物には宿敵から命を狙われたり、失恋したりといった描写も見られ、ロマンと同時に哀愁、孤独を漂わせているところが味わい深い。
さるやまさるぞう著 『男を追いつめた罪』に
エッチな描写はなかった…
同社の、さるやまさるぞう著 『男を追いつめた罪』の表紙には「被告は美女 原告は野獣」のコピーがある。悩ましいポーズで若い美女が寝そべっている。
どのようなロマンス小説なのだろうと思った。ところが、どのページにもエッチな描写は見当たらない。人間模様を軽妙に描いたショートショートだった。
表題作「男を追いつめた罪」では、弁護士同士が織りなす恋の駆け引きが描かれている。思い込みが強い男性と、現実的な思考の持ち主である女性…。軽いどんでん返しも随所に仕掛けられ飽きさせない。良い意味で裏切られた。
「大きなおうち」は中年男性と18歳少女との同棲生活のお話。男と少女の会話はかみあっていないようで、かみあっているのが面白い。作者の優しさを感じさせる。
才能に触れることは感動とともに、自分のなかに眠っているアイデアも刺激してくれる。女性も手に取りやすい表紙なら、同社の読者層はさらに広がることだろう。今後の刊行物も楽しみに注目したい。