坂口安吾『桜の森の満開の下』 

学びと読書
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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【山賊の美しい女房の想像図(イラスト:キムラクニヒコ)】

【山賊の美しい女房の想像図(イラスト:キムラクニヒコ)】

桜の木の下で恐ろしく不気味な体験したことがあります。子どものころ、桜の木の下は恐ろしい場所でした。間違いありません。大人になったいま、その記憶は薄れ、春になれば妻と桜を見に出掛けます。しかし、坂口安吾の『桜の森の満開の下』をひもとくたび、やはり、あのおそろしい記憶もよみがえるのした。

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ネットで知り合った読書好きの方々が企画する読書会に参加するつもり。本書を再読しています。

物語に登場する山賊は美しい女房が命じるままに、人々から着物や宝石を奪ってくる。しかし、女房の心は満足しない…。女房が何より欲しがるものは人の首。

舞台は平安時代。山賊が愛する山には桜の森があります。安吾によれば、森の桜花咲く下を通ると気が変になってしまうそうです。桜の下で酒を飲んだり、花見をしたりするのは江戸からの話で、大昔は恐ろしい恐ろしいところだと思われていたのだそうです。ここで、私の苦い記憶が蘇ります。

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子どものころ、桜の下は恐ろしいところでした。小学校の桜の木の下には、二宮金次郎の銅像がありました。私はその銅像にしがみつき、登ろうとすると手や腕にピリリとかゆみのような痛みが走りました。

桜は葉っぱも幹も、そして二宮金次郎の銅像にも、アメリカシロヒトリが密集しておりました。悲鳴を上げました。

私は決して桜の木の下には近づきませんでした。たくさんの毒毛や足を持つ毛虫。パラパラと落ちてきます。人びとが集まって語らえるような場所ではありませんでした。1980年頃の記憶です。

ところが二十歳も越したころからアメリカシロヒトリそ姿を見せません。学生時代は外濠公園で花見をしたものです。毛虫のやつらはいったいどこに消えたのでしょう…。

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