「注文の多い料理店」のようなセレブのパーティに招かれた

随想
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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知り合いの大学教員からセレブのパーティに招かれた。もっとも、私は本来招かれるような身分ではない。「料理が残るともったいないので、とにもかくにも食べまくってほしい」が期待された役目だった。

約束の場所は、お茶の水にある建物である。会場は、敷地の奥深く厳重に隠された大部屋だ。

鉄筋とガラスでできた近代建築の入口から、エレベーターに乗って約束の階に向かう。ドアが開いた。降りると、再び目の前にドアが現れた。しかし、廊下へ通じるドアノブは回らない。びくとも動かない。鍵がかかっているようだった。

バーティ会場は、廊下の中央だ。廊下の反対側から行ってみることにした。一階へ戻り、廊下の反対側にあるエレベーターに乗り換えた。エレベーターのドアが開くと、ここにも廊下の入り口にドアがある。このドアノブも回らなかった。

招かれているのに、どうしてもパーティにたどり着けない。帰る訳にもいかない。「食べまくる」という大切な仕事があったから。

一階に戻り、建物の守衛所に行った。事情を説明すると守衛は、鍵がかかっているはずはないのにな、と不思議がった。

守衛は鍵を持って、エレベーターに一緒に乗った。エレベーターのドアが開く、そして廊下に通じるドアが現れた。守衛は、ドアノブに手をふれると、いとも簡単に扉を開けてしまった。魔法のように見えて、とても驚いた。

守衛が言った。

「ドアノブはもともと回りません。この扉は、押せば開きます」

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守衛にお礼を言って、廊下を歩いた。セレブのパーティが行われいる部屋はすぐに分かった。会場の扉は開かれていた。多くの人たちで賑わうなかに入ると、にこやかに歓迎された。町おこし研究をしている紳士が、声をかけてくれた。

「やあやあ、お待ちしていましたよ。こんにちは。今年もどうぞよろしく」

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