匂いと記憶の関係【成田麻衣子『幸せを引き寄せる「香り」の習慣』を読む #1】

レビュー
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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東北・北海道方面の名物で、ホヤという海産物をご存じでしょうか。東北人(たとえば私の父など)はホヤを「海のパイナップル」と称し、食べたことがない人を見つけると、大喜びで振る舞います。

ホヤが「パイナップル」に見えるのは、当の東北人だけでしょう。見た目はグロテスクで、初めて食べる人たちは、たいていギョッっとします。

北海道のホヤ

北海道のホヤ

私も東北の生まれのためか、グロテスクな見た目のホヤが大好物です。ひと噛みすると、口の中で磯の匂いが広がります。すると、幼い日に東北で泳いだ海の記憶が、生々しく蘇ってくるのです。仙台よりも東京の暮らしの方が長いのに。

この「匂いによって過去の記憶体験が呼び起こされる現象」を、研究者たちは「プルースト現象」と呼ぶらしい[1]

アロマセラピストの成田麻衣子さんの近著『幸せを引き寄せる「香り」の習慣』によれば、この現象は文豪マルセス・プルーストの小説『失われた時を求めて』の一場面に由来する。物語の主人公が、紅茶のなかにマドレーヌを浸して食べようとすると、忘れていた幼少期の記憶が蘇るシーンです。まるで、私とホヤのよう…。

マドレーヌ

マドレーヌ

著者の成田麻衣子さんは「匂いの情報は、脳のなかで“感じる脳”とも呼ばれる大脳辺縁に直接届くため、嗅覚は人間の本能や感情に結びついた記憶と密接な関係がある」と説明します。

そういえば、秋になって金木犀の香りを嗅いだとき、幸せな気分になったことを思い出しました。

関連ページ:【金木犀、秋の香り】良い香りが気持ち良い理由

匂いと記憶には、やはり密接な関係がある。香りは脳に直接届くパワフルな情報。嫌なにおいは「臭い」で暴力だけど、良いにおいは「匂い」となる。上手に使いこなせば、匂いは自分や他者の気持ちを動かす力になり、「場」の空気を変える力にもなる。

本書『幸せを引き寄せる「香り」の習慣』では、香りを積極的に活用する45の方法を紹介しています。

各項目は、各2ページ前後で簡潔にまとめる。

  • 自分に似合う匂いを見つけ、「気」を整える。
  • 落ち込んだり、しんどいときは、好きな匂いを嗅ぐ。
  • 年齢に合った「モテる香り」を身に着ける。
  • どんなに好きでも、強い匂いは使わない。
  • 家庭内、社内……雰囲気が悪いときは、換気&アロマスプレーで効果テキメン!
  • 大切な人への手紙や贈物には、香りのスプレーをひと吹き。
  • 鼻呼吸で体を活性化させ、体臭を抑える。
  • お店を繁盛させたいなら、店の匂いを改善する。
  • ひのきのオイルで、家に沁みついた匂いをとる。
  • 玄関、トイレ、キッチン……場所ごとに、使う香りを変える。
  • 「物忘れ」「うつ」「介護疲れ」「睡眠不足」「ダイエット」に、アロマ。

原因不明の疲れや、気持ちの落ち込みを感じるとき、本書をパラパラと紐解くと、解決のヒントが得られそう。良い香りで、幸せの記憶を呼び出してみたい。

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【脚注】

  1. 成田麻衣子著,『幸せを引き寄せる「香り」の習慣』、p37
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