良質の悲劇物語 山川直人「 コーヒーもう一杯 」

コーヒーの話題
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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写真・筆者/LGL21

 山川直人「コーヒーもう一杯」に夢中です。仕事で帰ってきて、ソファーに寝転び、同じ物語を何度もよむ。大人のためのフォークロア。

 

「コーヒーもう一杯」で描かれている世界は悲劇

 可愛らしく、キュートな登場人物たち。彼彼女たちによって描かれる世界は、悲劇。絵柄や世界観は、西岸良平さんや手塚治虫に通じる良質の悲劇だと思う。西岸良平さんの短編の場合は、とりあえず“とってつけたようなハッピーエンド”が用意されている。山川直人さんが描く世界には、ハッピーエンドのオチが用意されていないことが多い。西岸良平さんの“とってつけたようなハッピーエンド”は、むしろ本当は救いようのない悲劇だったことを文脈から予感させます。山川直人さんは、“とってつけたようなハッピーエンド”という手法ではなく、可愛らしくキュートな絵柄で悲劇をオブラートに包み込む。いずれにしても、悲劇の物語が描かれている。

悲しさは、同じ理解を必要としている

 想像しうる限り最悪の悲劇は、イエスの十字架刑だと思う。こんなに惨めで悲惨な死に方はないと思う。最愛の人たちに裏切られ、裸にされて、つばをはきかれられ、へんな落書きをされて、笑われながら、最悪の肉体の苦痛でもってじわりじわりと死ぬのである。そんな想像しうる限り最悪の死に方に、数千年もの間、人々は慰められてきた。人生は、悲しみや苦難、そして喜びの連続。イエスは死に方を通して、生き方を示しているように思えます。イエスの死を想像すると、人それぞれに起きた悲劇は喜劇に思えるかもしれません。

 西岸良平さんや、山川直人さんや、手塚治虫が描く悲劇も、生き方を示しているように思えます。良質の悲劇は、人の悲しみを理解しているが故に、癒やすこともできるのかもしれません。前もって経験したことがある人が、同じ経験を理解することができるのでしょう。

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山川 直人
エンターブレイン(角川GP)
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