仙台のドブに落ちた神隠し

人生(LIFE)
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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田畑と町並みと曇り空(仙台空港付近)

私の生まれは仙台です。北国育ちとはいいましても、スキーをした経験はありません。東西に延びるこの街の地形にも理由があるようにも思えます。

仙台市の面積は東京都の特別区よりもやや大きい程度。東西に長く延びる地域のため、山間部と沿岸部では気候も大きく違います。生まれ育ったのは、太平洋沿いの平野でした。

仙台平野

周囲にある娯楽施設といえば、パチンコ屋とラブホテル…。

高校も世界の終わりのような辺境地にあったため、自転車通学で毎日12㌔㍍も往復しなくてはなりません。周囲は地平線まで続く田畑で、北風が吹けば遮るものもなく、その勢いは金星に吹く風ほどに、なんの遠慮もなく自転車に向かって襲いかかります。

ある冬の日、私の1㌔㍍ほど先にも女子高校生が自転車で走行していました。これを奥羽山脈から仙台平野になだれ込む風が直撃し、女子高校生が消えたのです。

私は、あれ、消えた。驚いていると、道路脇から手が見えました。

蝶よ花よと青春を謳歌する女子高校生が朝っぱらからドブに落ちるのも、この土地ならではの光景だった

蝶よ花よと小躍りするように青春を謳歌しているはずの女子高校生が、用水路という名のドブに落ちてしまったのです。これを見て高校生だった私は「これが東北の神隠なのかもしれない」と思ったのでした。

ウィキペディア先生によれば、金星の地表では時速数kmの風が吹く

幸い、私はドブには落ちず、10代を終えることができました。ただし人生においてはブラック企業に就職してしまったり、パチンコ中毒になってしまったりと「ドブのような」経験もするもの。

ドブにハマって世間様から見えなくなっても、また這いずり上がるのが人生ってもんかもしれません。

 

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