【書評】『学校メンタルヘルスハンドブック』健康的な生き方を探究する本

学びと読書
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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学校メンタルヘルスハンドブック』(日本学校メンタルヘルス学会・編)は学校現場の座右の書を目指して編まれたハンドブックです。学校メンタルヘルスとは、本書によると、明確な定義はないものの「学校という場で生活する構成員のメンタルヘルスを追求する活動、およびこれに関する学校領域」と暫定的に定義されています。健康的な生き方を射程に入れたこころの健康を考える活動や学問という意味合いもあるそうです。

私は学校現場に身を置く者ではありませんが、本書を手にとってみますと、義務教育時代に見てきた謎や疑問が氷解してゆく思いがしました。

教科書のような見た目ですが、随筆としても読書に耐えうる内容です。例えば、「教職員が体罰を行わないために」(p.125)という項目を担当した元中学校教諭の臼井吉治氏はこのように書いています。

「荒れた生徒に対して、力で押さえ込んだり怒鳴ったりしても同じことを繰り返す。きりがないのである。(中略)次はもっと強い力でおさえつけるようになる。さらにはこれが行くところまでいくとお互いの力関係の競争となり、力関係が逆転してしまうことがある。『話せばわかる。殴ればわかる』ならみんな問題を起こさない子どもになっているはずだが現実はそうではない」。

この部分を読んで、力で押さえつける先生と生徒の関係は大国の軍拡競争を連想してしまいました。

この項目を執筆した臼井氏はどのように解決したのでしょう。臼井氏はこれまでのジャージ姿とスリッパのスタイルを改め、紺のブレザーもしくはスーツを常用することにしました。それまで生徒を呼ぶときは呼び捨てでしたが、「くん」「さん」に変更。自分にブレーキをかけることで、大人としての行動をとりやすくし、相手が聞いてくれる状況を作り出す工夫をしたのです。一度だけネクタイを捕まれたそうですが、「○○くん。離しなさい」とゆっくり繰り返していうと、離してくれたというエピソードも書かれていました。子どもにとっての大人の見本を自らが示したのでした。

本書では対人スキルを妨げる誤ったモデルとして以下を挙げています(p.158)。

  • 不安をあおる。
  • 失敗をゆるさない。
  • 急がせる。
  • 子どもの存在を無視する。
  • 集中が途切れると叱る。指摘する。しかしフォローがない。
  • 周りの子どもに叱責に近い注意をさせる。
  • 指示が伝わらない時に「聞いていないあなたが悪い」と言い、個別に教えない。

教師と生徒の関係は、普遍的な人間関係のモデルに見えてきます。まるで、ステークホルダーに対する上司や経営者向けのチェックリスト。本書は教育分野に限らず、健康的な生き方に役立つ本です。

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