マキャヴェッリの悪徳マネジメントに入門してみた【わたしも哲学~高校倫理のおさらい~】

随想
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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「わたしも哲学~高校倫理のおさらい~」で意見を交わす参加者たち(撮影=筆者)

社会教育関係団体「フェローシップだんだん」による「わたしも哲学~高校倫理のおさらい~」の第40回講座が8月25日、気まぐれ八百屋だんだん(東京都大田区東矢口)を会場に開催されていました。

「気まぐれ八百屋だんだん」の入り口(東京都大田区東矢口)

フェローシップだんだん、とは

連続講座「わたしも哲学」は2013年のソクラテスを巡る講座から始まり、今年で7年目。講師が投げかける課題について考える内容で、参加のための事前準備は不要でした。私も大学の学部では哲学科に籍を置いていたこともあり、初参加してみました。この日は同会事務局の酒井佑真(ゆうま)さんが講師を務め、「マキャヴェッリ悪徳マネジメント入門」と題して7人の参加者が意見を交わしました。

フェローシップだんだんは「誰もが互いの違いを認め合って共に生きていく」地域社会をつくることを目的とした任意の区民活動団体。東京都大田区の蒲田西地区を主な活動地域として学習会、子どもの居場所、地域住民との交流会、各種見学会、サマーキャンプ、食事会、研究会等を展開しているそうです。

「わたしも哲学~高校倫理のおさらい~」に参加して驚いた2つのこと

この講座に参加して、2つの獲得がありました。①「マキャヴェリズム」(権謀術数主義、目的のためには手段を選ばないやり方)の始祖として陰鬱な印象を伴うマキャヴェッリですが、彼の思想には役立つ実践的な知見が含まれているということ、②児童・生徒の学校教育の現場で話題になること多い情報通信技術(ICT)を活用したアクティブラーニング(能動的学修)は、大人の学びにおいても効果的なこと、の2点です

この日はマキャヴェッリの思想を巡り「軍事について」「現実主義」「君主の資質」といった切り口で参加者たちは発言しました。

とりわけ興味深かったのは「自国軍」「傭兵軍(雇われ兵)」「外国支援軍」「混成軍」といった軍の種類を巡る議論でした。マキャヴェッリによりますと、役に立たない順で傭兵軍(雇われ兵)→外国支援軍→混成軍→自国軍と自らの外交官時代の経験を基に主張。一番役に立つのは自国軍だと言います。私はこれを「正規社員がおらず、派遣社員が決定権を持つ会社組織は弱い」と言い換えられのでは、と感じました。

マキャヴェッリは理想主義的なルネサンス期を生きた哲学者なのですが、彼自身は理想主者ではありません。政治は宗教・道徳から切り離して考えるべきであるという現実主義的な政治理論を提案しました。結果のためなら手段をかえりみない権謀術数の理論として、くらい印象を与える一方で、生き方に対して実践的で役立つことを書こうという取り組み自体はニーチェのような実存哲学の先駆けに思えました。

この他、君主の資質には冷酷と憐れみ深さ、恐れられることと恨みを買わないこと等を挙げ、国家の基盤には「よい法律」と「しっかりとした武力」が必要だとする彼の思想を巡って解説がありました。

大人も楽しいアクティブラーニング

哲学といえば、私は専門用語を教師が黒板にチョークで書いてノートをとるといった受け身の講座を思い浮かべていました。ところが、この講座では参加者は車座となり、クイズ形式の課題に参加者があれこれ考えて議論します。「教えるー教えられる」形態ではない能動的な学修(アクティブラーニング)で刺激的な学びを体験できました。

ICTを活用したアクティブラーニングを大人たちが楽しんだ

「軍隊でマキャヴェッリのオススメはどれだと思いますか?」「君主の資質は?」。クイズ、ゲームといった学びの技法が駆使されていて、2時間があっという間に過ぎました。

マキャヴェッリの思想はマネジメントで役立つか?

君主に判断力や決断力を求めるマキャヴェリの思想は、国家運営に限らず、会社などの組織運営といったマネジメントで役立つと感じるとともに、今の時代にそぐわない面もあると思います。

確かに人間は信用ならないものです。後に登場するカントもそのように考えて「永遠平和にために」という本を表し、「国際連盟」を形成するアイデアとして貢献しました。マキャヴェリの著作が書かれた時代は、こうした国連などの仲介する機関がなかった時代のこと。ましてモンテスキューの三権分立のアイデアもまだ登場していません。人間なるものは敵ばかりと戦国時代風の世界観に浸かりすぎますと、現実の組織運営も見誤りかねません。

むやみに策士っぷりに憧れると、まさに「策士策に溺れる」滑稽な状況にもなりかねず、何事もバランスが必要な気もしました。

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