IKEA 仙台に行って、初めて理解した「コト消費」

人生(LIFE)
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

木村 邦彦をフォローする

10月初旬。両親の金婚式を祝うため、夫婦で仙台市に行ってきました。父母にゴージャスな寿司をごちそうし、翌日は市内を散策して東京へ帰ってきました。

宿泊したのは同市太白区。長町駅前にあるビジネスホテルです。江戸時代は宿場町で、昭和時代は仙台中心部の一衛星都市でした。それがここ数年ですっかり近代都市に変貌しています。電柱も埋設されて洗練された景観でした。

昭和時代の長町駅には赤錆びた無数のレール、古びた駅舎といった物さびしい印象がありました。この一帯には旧国鉄の工場や貨物列車が停まる広大な操車場があったのです。その跡地が約1平方キロメートルにわたって再開発されました。

ひときわ興味をひいたのは、2014年に同地で開業した「IKEA(イケア)仙台」。ご存知のとおり、新聞などでもたびたび取り上げられているスウェーデン発祥の家具販売の大型店です。私は実際に訪れたことはありませんでした。東京にいると、立川、横浜、船橋まで足をのばす必要があります。

「IKEA 仙台」があるのは市民生活に密着した長町副都心(ながまちふくとしん)。うらやましくなりました。

ショールーム、マーケットルーム……。美術館内をめぐるように順路が決まっています。1本の道で家具、日用雑貨からカフェに至るまでつながっています。混乱がないので、膨大な商品を見た割に疲れは少なかったです。

IKEA流の生活様式を体験できます。北欧デザインに親しむ仙台市民の美的センスはますます磨かれてゆくことでしょう。

良質なサービスや特別な体験による満足感のために金銭を支払うことを「コト消費」と言います。シンプルな美しさを知る体験への対価は、買いものを通して一緒に支払っているように感じました。

もっぱら買わせることをゴールに据えた商法は時代おくれになりつつあります。顧客は家具を買うこと自体がゴールではありません。家具でもiPhoneでも、モノを通して実現したいコトがあるものです。

では、「家具を通して実現したいコト」とは何なのでしょう。それは人の数だけ答えがあります。家族と快適な団らんの場を作るコト、貴重な孤独の時間を過ごすコト、遠くからやってくる友だちとの会話の場を作るコト、お風呂場を清潔にするコト、増えたスパイスを整理するコト、窓拭きを上手にするコト……。

モノとモノとの組み合わせのなかにも答えが潜んでいる。お膳、窓拭きグッズ、スパイスミル、スラックスハンガーを買いました。

何度でも訪れたくなります。自分の家のように寝ている人までいました。くたびれたら休憩できるスペースまで用意されています。

1980年代、仙台の若者たちは『ビー・バップ・ハイスクール』に登場するような変な格好をした人たちばかりでした。数十年たち、すっかりあか抜けました。しかも、空気はきれいで美味しい。ここは開発と投資を待つ熱いフロンティア。

タイトルとURLをコピーしました