プラトンの学習論、学校で勉強をする理由とは?【わたしも哲学in池上第2回】

随想
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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9月28日に行われた市民による「わたしも哲学 in 池上(第2回)」(東京都大田区池上)

講師が参加者にこう問いかけました。

「なぜ学校で勉強をするですか?」

私は脳内でこう答えました。

「会社を辞めたら教育訓練給付が使えるし、キャリアアップ、スキルアップ、学び直し……ってところかな」

プラトン先生のお前はもう知っている!

9月28日、市民による哲学講座「わたしも哲学 in 池上(第2回)」がteracco池上(東京都大田区池上)で開かれていました。この日のお題は「プラトン先生のお前はもう知っている!」です。

ラファエロの「アテネの学堂」。中央の2人、プラトンが指を天に向けて、アリストテレスは手のひらで地を示している。

講師を酒井佑真(ゆうま)さんが務め、社会人や児童生徒といった約10名が和気あいあいと意見を交わしました。哲学用語をむやみに用いず、自分の言葉で語ることが求められるところに、この会の醍醐味があると感じました。

酒井講師が参加者にこう問いかけました。

「なぜ学校で勉強をするですか?」

学校で勉強をする理由

これに対して、児童生徒の一人がこう答えました。

「自分が大人になった時に、社会的なこととか、政治的なこととか、そういう知識がないと日本を支えていけないからです」 

文部科学省の役人が聞いたら喜びそうな模範的な回答が返ってきました。しかし、実はこの質問はプラトン哲学の「魂の不滅」「イデア論」「想起」といった考え方を説明するための伏線だったのです。プラトンにとって学ぶ理由は、この現実世界の事情だけではありませんでした。

現実界・イデア界の二つの世界

プラトンは人が死んで肉体が現実の世界に無くなっても、魂は死なずにイデア界に行くと考えました。まるで天国のようですね。こうした現実界・イデア界と二つに分けて考える世界観を「二元論的世界観」と言います。

1 イデア

プラトンは見たり触れたりできる「目の前のもの」に対して、見たり触れたりできない「ものそのもの」のことをイデアと呼んだ。

2 二元論的世界観

プラトンは二つに分けて考えた。

⑴現実界

感覚 (見たり触れたりすること)によって知ることができる世界。

現実界のものは、消滅・変化し、不完全である。

⑵イデア界

理性(考えること)によって知ることができる世界。

イデア界のものは、永遠不滅で真の存在であり、完全である。

イデア界には完全で真の存在であるイデアしかありません。現実界のバナナは腐りますが、バナナのイデアは腐ったりしません。そんなイデア界から魂は再び戻り、私たちは生まれます。しかし、イデア界で見た何かも忘れてしまっています。

想起(アナムネーシス)

プラトンによれば、私たちが何か抽象的なことを理解できるのは、イデア界に魂がいたから。この現実界で私たちが学習するということは、イデア界で見たものを思い出すことだと説明しました。こうした思い出すことを、想起アナムネーシス)と言います。

三角形(360°)、五角形(540°)、六角形(720°)多角形の内角の和を理解できるも、プラトンに言わせれば最初から答えを知っていたのですが、忘れていて思い出したからなのです。

社会人の参加者から鋭い質問が上がりました。

「そもそも忘れていたら思い出せないのでは?」

この質問に酒井講師は「確かにそうなんですね。ただ、私たちはふだんはゼロからいろいろ得ていくのだと考えています。しかし、日本語をいつ覚えたとか、そういうのも思い出せない、いろんなきっかけで思い出すんですね」と解説しました。

参加者からは更に鋭い質問が飛び出します。

「日本語のイデア界と英語のイデア界というのもあるんですか?」

これに対して酒井講師は「イデア界は一つ。イデア界は真実のもの。なかなか信じられないですね。信じられないのですけども、われわは、どうしてそういう抽象的なことを理解できるのか、不思議だなと思ったときに使う説なんです」と答えました。

プラトンの説はにわかに信じがたいだけに、参加者の意見と講師の切り返しにはぞくぞくさせるものがありました。

この日はこの他、▷現実界を人々が影を本物だと思いこんでいる洞窟の世界、イデア界を太陽が輝く外の世界として、イデア界への向き変えるには哲学を学ぶ必要があるとする洞窟の比喩、▷エロース(愛)が求めるものは肉体の美→精神の美→美のイデアとはしごを登るように高まっていく愛のはしご論、▷哲学者が国家の支配者となるか、支配者が哲学者とならない限り国家にとっても人類にとっても幸福はないとする哲人政治論等について意見を交わしました。

プラトンを知るために酒井講師からの課題本

興味があったら読んでみましょう! 、として酒井講師から提案された本は以下のとおり。

①プラトン著、『饗宴(きょうえん)』、中澤務訳、光文社、2013 年
②プラトン著、『パイドン一魂について』、納富信留訳、光文社、2019 年
③プラトン著、『国家(上)』、藤沢令夫訳、岩波書店、2012 年
④プラトン著、『国家(下)』、藤沢令夫訳、岩波書店、2012 年
⑤矢倉芳則/村田尋如監修『新訂版倫理資料集』、清水書院、2012 年
⑥濱井修監修、小寺聡編『改訂版倫理用語集』、山川出版社、2009 年

わたしも哲学、今後のスケジュール

今後は以下のスケジュールを予定しているそうです。

(1)わたしも哲学第41回(偶数月の第四日曜日)
日時:2019年10月27日(日)15時~17時
場所:気まぐれ八百屋だんだん(大田区東矢口1丁目17-9)蓮沼駅より徒歩1分
参加費:500円
(2)わたしも哲学in池上第3回(奇数月の第四土曜日)
日時:2019年11月23日(土)19時〜21時
揚所:teracco(テラッコ)池上(大田区池上6丁目2-19)
テーマ:第3回はアリストテレスを予定しています
参加費:500円

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