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国際環境NGO・FoE Japan企画「気候変動と生物多様性」世界の平均気温が1.5度上昇するとどうなるの?

学びと読書
モクソン ホウ

法政大学文学部哲学科卒。編集関係の業務に従事。金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味は絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。

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『IPCC1.5度特別報告書』をもとに、気候変動が与える生物多様性への影響について報告する甲斐沼美紀子さん(東京・渋谷、撮影=筆者)

晩夏の夕方。東京都渋谷区にある東京ウィメンズプラザで生物多様性に関するセミナーが開かれていました。

ティーンエイジャーの女性が手を挙げました。「地球温暖化ではなく、寒冷化に向かっているという話も耳にするのですが、それは実際のところどうなのでしょうか?」

世界の平均気温が1.5度上昇するとどうなるの?

8月23日。東京ウィメンズプラザ(東京都渋谷区)で認定特定非営利活動法人のFoE Japanが『気候変動と生物多様性』と題して、生物多様性に関する第2回セミナーを開いていました。

先の質問に対して、登壇した有識者の甲斐沼美紀子・公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)顧問は次のように答えました。

「基本的には気温は上がっています。気候モデルで何が影響しているのか観測するにあたって、自然の影響か人的な影響かの2つに分けて推定を行います。すると、自然の影響はほぼ横ばい。人的な影響は上がっている。太陽の黒点の位置等、さまざまな理由で地球全体の気温は上がったり下がったりし、氷河期や間氷期(氷期と次の氷期の間)があったわけですけども、こうした長いスパンではなく、ここ100年、20年に限って言えば、明らかに上がっています」

IPCC1.5度特別報告書

この日、甲斐沼さんは2018年10月に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)において採択された『IPCC1.5度特別報告書』をもとに、気候変動が与える生物多様性への影響について報告しました。同報告書は世界の平均気温が産業革命前に比べて1.5度上昇した場合の影響や、1.5度を達成する排出シナリオを示したもので、加盟している195か国の政府によって承認されています。

同報告書のキーメッセージは次のとおり。▽気候変動はすでに、世界中で、人々の暮らしや生態系に影響を与えている。▽1.5度の気温変化による影響の差は有意である(例:2度上昇では暖水性サンゴの99%以上が死滅。1.5度では70〜90%以上の死滅に留まる。サンゴ礁には9万種の生物が住む)。▽気温上昇を1.5度以下に抑えることは不可能ではない。しかし、社会のすべての面において、これまでにないトランジションを必要とする。▽持続可能な開発目標などの、世界の他の目標を達成することと歩調を合わせて、1.5度を達成することは可能である。

今回のセミナーでは、絶滅の恐れのある種の割合、工業化前後での人間活動による気温上昇の変化、1.5度上昇した場合の影響、マングローブ、北極域の生態系、食物の収量、洪水、観光、暑熱に関連する疾病および死亡等の自然・管理・社会システムへもたらす影響とリスク等が解説されました。

バイオ燃料の拡大による生物多様性への影響

続いて、FoE Japanのスタッフ・深草 亜悠美さんが「生物多様性と気候変動の切っても切れない関係」と題して報告。気候変動対策のシナリオの多くはバイオ燃料の活用に頼っているが、バイオ燃料の拡大による生物多様性への影響は検証が不足している現状を指摘しました。

日本で拡大するバイオ発電事業において、固定価格買い取り制度(FIT)の認証を受けた発電所がすべて稼働すると、年間340万㌧ものパーム油が燃やされてしまうことになります。現在の日本のパーム油の輸入量の5倍に相当で、パーム油の需要は森林の消失につながるアブラヤシによるプランテーション開発に絡むリスクがあると疑問を投げかけます。これに代わる在り方として、生物多様性配慮型の対策の必要を改めて訴えました。

筆者が感じたこと

エネルギーを巡る考えを改める機会となりました。地球温暖化をもたらす二酸化炭素の排出量を減らすには、石炭、石油に代わるエネルギーとしてバイオ燃料を推進すればよく、それによって江戸時代のような循環するエコシステムがやってくると単純に思い込んでいたのです。

おまけに、先のティーンエイジャーと同じように、地球は寒冷化に向かっており、すでに排出された温暖化ガスとプラスマイナスで気温はさほど代わらないのだろうと牧歌的な考えを持っておりました。しかし、数値的な気候データを前に、私の牧歌的な考えはエビデンスに基づくものではないことに気付きました。

今、省エネ、省資源を心がけるといった個人・家庭レベルのミクロな視点の取り組みや、政策に目を向けたマクロな視点を持つ働きかけが求められているようです。パリ協定、持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)だけでなく、「IPCC1.5度特別報告書」のような目標等があることを知ったことも有益でした。今後、世界を読み解く知見を得ることができたセミナーでした。

FoE Japan は世界74ヵ国に200万人のサポーターを有する Friends of the Earth International のメンバー団体として、日本では1980年から活動を続けている国際環境NGO。興味を持たれた方は下記の公式サイトをご覧になってみてはいかがでしょうか。

国際環境NGO FoE Japan
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