『ウェブニュース一億総バカ時代』の「バカ」とは「誰」かを考える【#1】

レビュー学びと読書
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

木村 邦彦をフォローする
三田ゾーマを読む

三田ゾーマを読む

双葉新書より2015年5月20日に出版された『ウェブニュース一億総バカ時代』は、ウェブニュースの「なかの人」が、ステマ記事づくりを赤裸々に公開しています。

この本の面白さは、たんなる暴露本としてだけに留まりません。インターネットマーケティングを学ぶ良い教科書にもなります。こんな分かりやすい本は、ありそうで、なかなかありません。

ウェブニュース一億総バカ時代」はステマを批判しているのであって、SEO(Google検索などで上位にすること)を意識したサイト運営や、SNSなどを意識したマーケティングを全否定しているわけではありません。この点はとても重要です。この点を読み落とすと「あるある!どこの業界でもある話だよね」のようなつまらない一般論になってしまう。最悪な誤読は「だからインターネットのメディアはだめなんだ」という、古風なメディア人たちの言い訳に使われてしまうことです。

ウェブメディア登場以前、人々は賢かったのか?

そもそもの疑問は、「ウェブニュースを信用して読むとバカになる」のでしょうか。この疑問には、Gunosyの株主向けのIR情報に答えがありそうです。(ちなみに、Gunosyはウェブニュースを束ねる総本山のようなキュレーション・サービスの運営会社です。)

当社は、「情報を世界中の人に最適に届ける」を企業理念に掲げ、インターネット上に存在する膨大な量の情報のなかから、ユーザーの興味・関心にあわせてパーソナライズ化された情報を配信する情報キュレーションアプリ「Gunosy(グノシー)」の運営を行っております。

出典:事業内容 – IR情報|株式会社Gunosy(グノシー)|情報を世界中の人々に最適な形で届ける(閲覧日:2016/06/24)

Gunosyが対象にしているユーザーは、ネット上に存在する膨大な量の情報のなかから、興味・関心にあった情報を見つけられないような人たちです。リテラシーが低い層を狙っているのです。これを、三田ゾーマさん風に書けば「バカ」ということになります。

リテラシーが高い層は、新聞の電子版やNewsPicksなどを愛読していることでしょう。充実した検索機能の備わった日経電子版を使いこなしている人は、相当リテラシーは高いはずです。

ウェブニュースを読む人は、おしなべて「バカ」なわけではありません。

「リテラシーが低い層」を狙い撃ちするビジネスモデル

エンゲイジ(読者の反応を数値化した成績)を意識するウェブメディアは、あらゆるアルゴリズムも用いて「バカ」を狙い撃ちします。広告収入を得るためです。

「バカ」を「バカ」のままにするのが、三田ゾーマさんが批判するところのウェブニュースメディア(でありキュレーションメディア)の喜びなのです。三田ゾーマさんの著書のタイトルは、少々あおりすぎで、誤解を誘います。「ウェブニュースを信用して読むとバカになる」のではなく、ユーザーは「ウェブニュースを信用して読むとバカなまま」(リテラシーが低いまま)になってしまいます。

ウェブメディアは生き残るため、リテラシーが低いユーザーが一億もいれば天国でしょう。しかし、そのような数は目標にしていないはずで、Facebookで10万人から「イイネ」を獲得できる記事があれば御の字のはずです。

とはいえ、こんなバカなビジネスモデルが長く続くわけありません。幸か不幸か、人は飽きっぽい。

関連ページ: 【インターネット】Gunosyの動きからバイラルメディアの展望をうらなう (2015年11月5日)

Gunosyがマザーズに鳴り物入りで上場を果たした2015年春から一年を振り返ると、いまでは「バイラルメディア」という関連キーワードは話題に上りません。キュレーションメディアは、相当淘汰されたようです。

しかし、インターネットマーケティング自体は無視できない

とはいえ、ますますインターネットマーケティングが重要であること自体は変わらない。このことを企業の広報担当は、切に認識する必要があります。ネイティブアド(おもしろ記事などを装った広告記事)は、ひとつのブームであって、ブームはいずれ過ぎ去ります。

冒頭に三田ゾーマさんの著著は単なる暴露本でなく、インターネットマーケティングを批判的に学べる良書だと言いました。単なる暴露本だったら、本としての寿命は長くはないでしょう。インターネットマーケティングに不慣れな(つまりリテラシーが低い)メディアの広報担当は、いま何をするべきか、何をしてはダメなのかを、至急学ぶ必要があります。本書は、その手がかりになるのです(続く)

PR
タイトルとURLをコピーしました