音楽

Brian Enoの最高傑作は何か? The Pearlではないだろうか

レビュー
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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The Pearl

 Brian Enoの最高傑作とは何か?という議論は、非常にワクワクするものだ。

 Enoは、どの時期においても、特徴ある素晴らしい作品を残している。そのなかで、あえてどの時期が最高なのかといえば、80年代なのだと思う。とりわけハロルド・バッドとの共作は素晴らしい。ハロルドがピアノを弾いているのだが、はやりEnoの作品だと思わせる何かがある。その何かとは、音と音で形作られる世界というか、空間というか、その体験自体がEnoそのものなのだ。

媒体としてのLPレコード、CD、そしてアプリ

 LPレコードは片面30分程度の記録しかできなかった。CDなら70分程度かもしれない。アプリは……。容量うんぬんではなく、電池の持ち具合に依存するだろう。ただひたすら長く演奏できる媒体が、ambientに相応しいとすれば、アプリは新しい可能性を秘めた媒体といえるのかもしれない。

 Enoのambientミュージックは、抽象絵画のようなきらめきを持っている。そして、それを具体的な例としてあげることもできる。iPhone・iPadのアプリであるBloom – Opal Limitedであったり、Air – Opal Limitedであったり、Trope – Opal Limitedなどである。
これは非常に美しい体験にいざなうアプリだ。音楽であり、絵画的な体験である。各アプリの詳細は、また説明するとして、LPレコード、CD、そしてアプリへと場は拡がってゆく。Bloomは、かけっぱなしにしていれば、一日以上はなりっぱなしで、空間を新しく彩ってゆく。このような媒体は、LPレコードやCDですらも不可能であったことだ。

音楽体験は人それぞれに違うものだが

 アプリで奏でる音が、楽曲といえるのかどうかは、私は分からない。The Pearlは、楽曲として成立している。ambientは、聴くことも無視することもできることが、根底的なアイデアだとは思う。しかし、The Pearlは聴こうと思って、聴く作品だろう。楽曲として成立しているし、なにより美しい世界が描かれているからだ。

 The Pearlを聴いていると、いつも同じ光景が目に浮かぶ。雪降る東北の光景だ。深い山奥に、凍結した湖があって、そこに多くのツルが舞い降りてくる。周囲に街はなく、私は若い父とともに、ツルを観ている。そんな同じ光景に、いつも誘われる不思議な音楽体験をするのだった。

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