【坂口安吾『人生案内』】仕事もしないで人生相談に投書ばかりのバカ亭主

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木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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坂口安吾『人生案内』仕事もしないで新聞に投書ばかりしているバカ亭主の話

人生案内』は、坂口安吾の短編小説です。働かないバカ亭主の転末が描かれています。悲哀に満ちた笑い話で、恐ろしい教訓も含んでいます。

この男は、かつて仕入れの商いをしていました。羽振り良く、儲けていた時期もあったのですが、時代の流れについてゆけず没落します。いまでは日雇い労働や、妻の針仕事で、幼な子の飢えをしのいでいます。しかし、こんなに困窮しているのに、男は次第に仕事をしなくなります。新聞の人生相談コーナーに創作を投稿するのに、凝りだしたからです。当然のことながら、生活は苦しくなります。新聞も買えません。一家を支えるのは、妻の針仕事だけになってしまいました。

亭主は若妻に、針仕事よりも飲食店で働くようすすめます。妻は外で働きはじめます。外の世界を知り、さまざまな男たちに口説かれ、妻は色香をましてゆきます。甲斐性なしの亭主が、汚らわしく見えてきます。ある日、他に男を作って、家を出てしまいました。

亭主は、家事と子育てに努めるので、なんとか帰ってきてほしいと妻に懇願します。その言葉には、新聞投稿の道楽をやめる気配はなく、まして働く様子も見えません。妻の怒りはおさまらず、火に油を注ぐだけでした。

バカ亭主はこのような事態に陥り、子どもを飢えさせないように奔走するなかで、改心します。ここで、お話はおしまいです。

たしかに、趣味が高じて仕事になることもあるものですし、どんなビジネスにもリスクは生じます。しかし、この男には、リスク管理もビジネスへの野心も感じられません。原稿料を得ているわけでなく、人脈を広げようとか、自己投資の面もありません。男の新聞投稿は、まったくをもって、趣味の域を出ません。

いうまでもなく、家族は、経済的な一単位です。リスク管理のためにも、プロジェクトへ家族の理解を得ることは大切なはず。何より大切な伴侶を失ってしまうオチに、非常にイライラさせられます。こんな男のようでありたくない。といった具合に、良い意味でトラウマになる物語です。

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