高すぎるiPhone XS Max は買うべきか

技術
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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iPhone7Plusから機種変更するため、20万円をためていた人がいるとしましょう。

「X」からマイナーアップデートしたiPhone XS Max 512GBを買おうか迷っています。少し足ができますが、なんとか買うことはできます。延長保証サービス「AppleCare」を付けた見積もりは税込20万2608円。ノートPCが1台買えそうな金額になりました。

iPhone XS Max 512GBにAppleCareで、税込20万2608円

有機ELを採用し、ふたつの電話番号も登録できます。新たに加わった機能を見ると、それくらいの価値はありそうにも思えてきます。しかし……。

iPhone、一点豪華主義の終わり

Appleが20万円もするiPhoneを投入したことに、私自身は戸惑いを感じています。この戸惑いは私だけではありません。Appleに部品を提供しているメーカーの株価を見ても分かります。台湾の大立光電は21日、4月末以来、約5カ月ぶりの安値を付けました。「XS」と「XS Max」の価格が想定以上に高額となったため、上位機種の販売量が伸びないリスクがあると投資家に判断されたからです[1]

iPhone購入に資金を集中させる一点豪華主義は時代遅れになりつつあります。もはや、iPhoneはオールインワンの「魔法の板」ではありません。

近年ではiPhoneだからこそできないことが増えています。例えば、ApplePencilを使って描くことはできない(iPadならできる)。一度に2つのアプリ画面を表示できない(iPadのマルチタスク機能ならできる)。外部キーボードを使っても、iPadやMacほど使えるショートカットキーはありません。まして、心拍数は測れません(AppleWatchならできる)。などなど。

iPhoneがオールインワンだという幻想はいつ終わったのでしょうか。

私が初めて手にしたiPhoneは「3GS」です。2009年のことでした。当時、競合していたのはガラケー。機能を比較すると、iPhoneの多機能ぶりはオールインワンそのものでした。モデルの違いは容量か色かだけ。契約できるキャリアもソフトバンクだけでした。

ところが、iPadが発売された2010年ごろからiPhoneへの印象が変わり始めます。ユーザーはiPadにできてiPhoneにできないことに気づいたのです。iOSに連係機能が加わった2014年、AppleWatchが発売された2015年も大きな出来事でした。デバイス同士は足りない機能を補完しあう関係に変わりました。言い換えますと、他のデバイスと組み合わせたり、使い分けたりすることで生かされる機能が増えたのです。こうして、ユーザーは自分自身のためのエコシステム(生態系)を作り上げることができます。

ここ10年間でユーザーの利用環境は大きく変わりました。Appleが市場に投入するデバイスはたくさんあります。iPhone、iPad、AppleWatch、iMac、MacBook、iTunes、Apple TV……。それぞれが連鎖してユーザーの生活に貢献しています。

AppleWatchで取得したデーターをiPhoneで管理するとか。iPhoneで購入した固定レイアウトの電子書籍をiPadで読むとか。iPhoneにかかってきた電話は、AppleWatchのみならず、iPadやMacでも応答することができます。

こうしたデバイスは利用者の大事な財産です。しかし、この財産は所有していても価値は目減りするだけ。金やプラチナのように相場で価値が上がったり、預貯金や債権のように金利がついたりはしません。価値が半減したかなくなりかけたころ、われわれは買い替えをします。iPhoneの場合は、2~3年程度の周期でした。

いまあるものより、ないものに投資した方が幸せになれる可能性がある

買い換え資金が20万円ある人はiPhone XS Max 512GBを買うべきでしょうか。iPhone 3GSのころのように、一点豪華主義で買い物を楽しむ時代は終わりました。先に述べたように、iPhoneにだけお金をかけても、機能が完璧になるわけではありません。ユーザーのエコシステムに目を向けて買い物をする必要があります。

20万円の手元資金しかないなら、iPhone XS Max 512GBは買うべきではないと思います。

もしあなたがiPhoneしかApple製品を所有していないなら、無印iPadに約5万円、ApplePencilに約1万円、AppleWatchに約3万円、残った金額で購入可能なiPhoneを買った方が幸せになれることでしょう。iOSの連係など新しい体験がまっています。MacBookProとiPhoneという組み合わせもワクワクしてきます。Kindle Paperwhiteを買ってみても幸せになれます。電子書籍デバイスやタブレットは複数あっても困らないものです。

経験的な話で恐縮ですが、いまある何かを改善するためにお金を投資するより、いま手にしていないものを得ることにお金を投資する方が世界が変わる可能性があると私は考えています。

いまだにガラケーだけを使い続けている人が、高機能ガラケーに買い替えても世界は大して変わりません。だが、スマホに買い替えたなら世界が劇的に変わる可能性があります。仕事もプライベートも。

道具は適切な組み合わせで生かされる

iPhone XS Max 512GBは買うべき人を選びます。買うべき人とは20万円をためた人ではなく、200万円の余裕資金がある人だと感じます。iPhone XS Max 512GBを買える人は、iMac ProやiPad Proの最高位モデルでエコシステムを構築できるです。

それはとてつもなく快適で、素晴らしい環境に違いありません。しかしながら、その快適さはいつまでも続きません。先に述べたとおり、デバイスという資産価値は目減りします。いつしか時代おくれとなり、高速に感じられた感動も薄れてゆきます。そして数年後にはポンコツになるのです。そのときに再投資が必要になります。求められる金額は繰り返されます。20万円なのか200万円か。所得が上がったら、グレードアップすれば良いでしょう。

部分ではなく、エコシステムで考える

われわれは、デバイスの組み合わせや、来るべき買い替えのことも考えておかなくてはなりません。限りある予算で、デバイスという資産のポートフォリオを作り上げることもセンスのうちです。リスク分散で、何かが代わりになるような持ち物も用意しておくことも大切なのだと思います。

罪は免罪符で償うことはできません。幸せは寄付したお金に比例して与えられるものでもありません。限られた予算で適切な組み合わせが幸せを招くことでしょう。目指すべきゴールは適切な組み合わせであなたが幸せになることです。


【脚注】

  1. 2018/09/21 14:17 日経速報ニュース
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