新宿東口のまずい立ち食いそば屋は、恋の味がする

技術
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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立ち食いそばのイメージ画像

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土曜日のこと。私は新宿にいました。健康診断です。

用事が済むと午後4時。一日何も食べておらず、腹が減りました。ちかごろ、二郎系ラーメンで「やさいにんにくましまし」に食傷気味だったこともあり、あっさり上品な「喜多方ラーメン」を無性に食べたい。「喜多方ラーメン」とiPhoneのナビアプリで検索しました。ナビは「ルートから外れました」とか「次の横断歩道を左に曲がります」とか言ってナビゲートしてくれたものの、十数分後、たどり着いたのは新宿駅東口の立ち食いそば屋でした。

なぜ「立ち食いそば」なのか。しかしもはや空腹感はがまんできないレベルに達して、ラーメンだろうがそばだろうが、どちらでもかまわない気分です。もしかすると『孤独なグルメ』のような出合いもあるかもしれませんし。そんな期待もあり、未知の立ち食いそば屋に入ることにしたのです。お店は繁盛していました。店内で鳴り響く競馬中継は、新宿東口らしい雰囲気です。

私は「かけそば付き天丼定食」を注文しました。すぐに出てきた小粋な天丼を食べると、飯は腐った接着剤のような味がしました。これはゾンビですか? お米の味がしません。細かく切り刻んだラーメンのようでした。

この飯は自分自身の経験にもとづきブレンド米を使っていると直感しました。おいしくないお米であっても、精米しなおせば、おいしくなることもありましょう。でも、そんな工夫はしていないらしく、現にまずいということはこれでよしということなのだろう。食えなかった。530円返して欲しくなりました。コンビニでパンを買った方がましでした。恨み言を念じたくなり、その対象を店員に向けたくなりました。店員さんは体育会系で、男は黙ってという感じで、目は鋭かった。怖かった。私も無言で食し続け、ストレスがたまってきます。負のスパイラルに陥り、ますます悲しい。

なぜ、まずい飯を食うと、かくまで悲しい気持ちがするのでしょうか。その考察で、次の仮説を立てた。

外食は、あれこれ街を歩き回った自分へのご褒美。未知の料理との出合いには、どこか人生の新しい扉を開くようなときめきを感じる。たとえば恋に似ている。「かけそば付き天丼定食」にも、相思相愛かいなかの相性の問題が生じる。

次に、なぜこの店はこんなに繁盛しているのでしょうか。

このお店の味がわかる客がいるということなのでしょう。ユーカリの葉を好んで食べるコアラのように蓼食う虫も好き好き。すべては需要と供給。これがむしろ幸いで、この世界を救っている。かく言う私も、さまざまな人々に救われて生きてきた。一筋縄ではいかない。天丼を少々残し、そば屋をあとにしました。

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