樋口喜昭さん「幸せになる技術」 むかしのSHARPはスゴかった

技術
木村 邦彦

法政大学文学部哲学科卒。記者、編集者。歴史、IT、金融、教育、スポーツなどのメディア運営に携わる。FP2級、宅建士。趣味はエアギターと絵画制作。コーヒー、競輪もこよなく愛す。執筆のご依頼募集中。

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樋口喜昭さん「幸せになる技術」 むかしのSHARPはスゴかった

樋口喜昭さん「幸せになる技術」 むかしのSHARPはスゴかった

ネットラジオの事情ラジオhttps://jijyo.com/)は旧友が運営に関っているということもあり、2006年の「開局」からときたま聴いています。

このプロジェクトは有志によって運営され、複数の番組が組まれています。それぞれの番組に担当のパーソナリティがいる豪華さで、無責任な毒舌の人がいたりギーグ系の専門家がいたりと多様です。

公式サイトではアーカイブ(過去記事)が公開されており、配信をさかのぼって聴くことができます。ギーグ系の番組には一聴の価値があり、技術担当の樋口喜昭さんのトークからはテクノロジーを巡る知見が得られます。

たとえば、2012年7月24日に配信された「幸せになる技術#002」は、樋口さんが愛蔵するSHARP製のB級デバイスを巡りトークが展開されます。

音源の出典:事情ラジオ「幸せになる技術#002」(2012年7月24日配信)より

iPadもiPhoneもなかった20世紀末に世に問うた斬新な電話機。かつてSHARPが良い意味で失敗を恐れぬ「やんちゃ」な会社だったことに改めて驚かされてしまいます。

発売当時の新製品情報(画像は同シリーズの「NC-10」)

発売当時の新製品情報(画像は同シリーズの「NC-10」出典:当時のSHARP HPより)

樋口さんがこの配信で紹介していらっしゃるマルチメディアホン「NC-10」シリーズは電話、FAX、メール、インターネット、赤外線通信を一台でこなす「固定電話機」でした。FAXは紙を使わず、液晶画面で表示する仕様だったようです。iPadやiPhoneのようなiOSのアイデアをすでに先取りしていると樋口さんは強調します。

付属ペンで液晶画面を操作します。使い勝手は必ずしも良いとは言えなかったようです。盛りだくさんの機能と、使い勝手の悪さ。清濁併せ呑むこの電話機は誰を幸せにしたのでしょうか? 進行役のモルタルさんのこの問いに、樋口さんはつぎのように答えました。

「一般の人を幸せにはしなかったが、技術者(の開発精神)を刺激したことだろう」

NC-SB10の話から、私は90年代頃のSHARPを代表するPDA(携帯情報端末、電子手帳)を思い出します。ご存じの方も多いと思いますが、SHARP独自のZaurus OSをそなえていた「Zaurus」(ザウルス)です。1990年末、iPadやiPhoneはなかったけれど、AppleはNewton、Palm社ではPalm(パーム)、SONYはCLIE(クリエ)といった具合にPDAはすでに存在していました。PDAとは何か、いまいちピンとこない人のために説明すると iPod touchのようなデバイスのことです。その一つがZaurusなのでした。

ZaurusシリーズとNC-SB10からは似通った設計思想を感じさせます。いま私の手元にも、一台の古いPDAがあり、1999年12月に発売されたZaurusシリーズMI-C1です。

付属のペンで操作します。BluetoothやWi-Fi はありませんが、赤外線通信でパソコンと同期できます。携帯電話等をケーブルでつなげば、メールやネットもできました。専用のアプリもインストールでき、おもちゃ箱に触れているようなワクワク感がありました。

 1990年代当時、バイブルサイズのシステム手帳を使うサラリーマンや学生がまだ多く、情報が増えると紙の量も増える重くなります。電子手帳は重さが変わらず、当時の私はPDAの登場にとても感動したことを思い出します。

筆者が所有するMI-C1(1999年12月07日発売)

筆者が所有するMI-C1(1999年12月07日発売)

残念なことに、SHARP独自のZaurusOSの開発はすでに終了しています。2006年3月を最後にZaurus自体の生産も完了してしまいました。時代の最前線はスマートフォンへ移行し、PDAなんて言葉も死語になりつつあります。SHARPが市場に投入するスマホはAQUOSシリーズとなり、Android OSという他人の土俵で闘っています。似たり寄ったりなスマホが拮抗するなかで、どの会社もいかにオリジナリティを生むかで苦悩がにじんでいるようにも思えます。

思えば、90年代後半は、SHARPがSHARPらしかった時代でした。いまでは外資系企業傘下となったのは、周知のとおりです。NC-SB10で見せた技術者を幸せにするDNAは失われてしまったのでしょうか。ふただびSHARPが「幸せになる技術」を生み出す、元気さを取り戻してくれることを祈るばかりです。

お知らせ
2017年3月23日:配信データ先ケロログにアクセス不可のため、音源は直リンに変更しました。
2016年9月18日:ネットラジオの配信データが直リンになっていたので、サイトへのへリンクに変更いたしました。

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